【日本一周バイク旅】和歌山・熊野本宮大社と那智の滝で出会った“動き出す勇気”

国内ストーリー
国内ストーリー旅のガイド
ライター
keita

旅とサーフィンを愛するライター。
バイクで日本一周を経験し、海や山を巡りながら“人のあたたかさ”や“心が整う瞬間”に出会ってきました。
“自由な旅”の中で感じた感動や気づきを、言葉と写真で表現し、読む人が「旅に出てみよう!」と思えるような記事をお届けします。

転職を控えた春。
「こんなまとまった休み、もう取れないかもしれない」
そう思った瞬間、長いあいだ胸の奥にしまっていた“日本一周バイク旅”の憧れがふっと顔を出した。

旅行でもいいけれど、それでは何か物足りない。
ならば、このタイミングで一歩踏み出してみよう。


和歌山・熊野を“旅の初日”の目的地に決め、エンジンをかけた。


出発前にあった迷い。それでも踏み出した理由

当時はコロナ禍の真っ只中。
遠出をする空気ではなかったし、そもそも自分は一人で飲食店に入ることさえ緊張してしまうタイプだ。
そんな中で“旅に出る”と決めるのは、正直勇気がいった。

それでも、机の上で悩んでいるだけでは何も変わらない。
計画を細かく詰めていたら、今度こそ出ない理由を作ってしまう。

だから今回は、考える前に動くことにした。
荷物は最低限。行き先も前日にざっくり決めるだけ。
「嫌になったら帰ればいい」。
そんな気持ちでスタートラインに立った。


岐阜から熊野へ向かった280kmの始まりの道

目標は日本一周。

海の景色を少しでも間近で見られるよう、時計回りで回ることにした。

行き先は前日にざっくり決めるだけ。細かい計画は立てない。

「嫌になったら帰ればいい」。

そんな気持ちで、数日分の着替えをバッグに詰めてバイクのエンジンをかけた。

岐阜を出発して、最初の目的地・熊野本宮大社までは約280km。

三重県を南西へ抜け、名張市から奈良県に入り、吉野を通って南下するルートを選んだ。

信号も交通量も少なそうな道を選んだが、結果は大正解だった。

山に囲まれた景色の中を、バイクでスッと抜けていく。

澄んだ空気と、時折ひらける雄大な景色に、自然と胸が高鳴った。

ただ、天気は良かったものの、まだ春先で朝はかなり冷え込んだ。

途中のコンビニや道の駅で温かい飲み物を買い、冷えた手をカップで温めながら、これから始まる旅を静かに想像した。


【熊野本宮大社】蘇りの地で感じた静けさと祈り

山深い道を南へひた走り、和歌山県の熊野本宮大社についたのは昼前になっていた。

境内に足を踏み入れた瞬間、空気が少しひんやりと変わった。

長い石段が神門へと続き、上り切ると社殿前では一対の狛犬が静かにこちらを見守っている。

黎明殿

青空の下、その姿を見ていると、まるで長い旅路の安全を祈ってくれているように感じた。

拝殿の奥からは鈴の音がかすかに響き、金の灯籠が陽の光を受けて淡く輝いていた。

熊野本宮大社
金灯籠

どこか遠い昔から続く“祈りの時間”に、自分もそっと加わったような気がした。

熊野本宮大社は、熊野三山の中心とされる神社で、古くから「蘇りの地」と呼ばれている。

かつては熊野川の中洲に鎮座していたが、明治22年の大洪水で社殿が流され、現在の場所に遷座された。

境内の先には旧社地・大斎原(おおゆのはら)を望む大鳥居が立ち、そこに流れる風はどこか神聖で、時間がゆっくりほどけていくようだった。

見上げた屋根の曲線は美しく、杉木立の深い緑と重なり合っていた。

その静かな調和に、心の奥がじんわりと温まる。

どこか懐かしいのに、初めて見るような新鮮さがあった。

迷いながらも出発した自分の背中を、誰かがそっと押してくれた気がした。

境内を吹き抜ける風が、まるで「行ってこい」と囁くように通り過ぎていった。

【熊野本宮大社 情報】

住所:和歌山県田辺市本宮町本宮1110
アクセス:紀伊田辺駅から車で約1時間〜1時間20分(公共交通の場合は約2時間)
参拝時間:8:00〜17:00(季節により変動あり)
駐車場:無料駐車場あり(本殿近く・河川敷など複数)

公式サイト:https://www.hongutaisha.jp/



【那智の滝】日本一の直瀑に込められた圧倒的な力

熊野本宮大社をあとにして、南へとハンドルを切った。

山道を抜けるたびに、緑の濃さが少しずつ深まっていく。

那智勝浦の町を抜け、さらに山道を登っていく。

まず参拝したのは、朱色が美しい「熊野那智大社」。

石段の上に広がる社殿は、陽を浴びてまぶしいほどに輝いていた。

境内には線香の香りが漂い、木々の間から差し込む光がゆらゆらと人の影を照らしている。

厳かなのに、どこかやさしい空気に包まれていた。

熊野那智大社は、那智山の中腹に鎮座する熊野三山のひとつで、滝そのものを御神体として信仰する「飛瀧神社(ひろうじんじゃ)」と深く結びついている。

那智の滝は落差133メートル——日本一の直瀑(ちょくばく)として知られ、古くから修験者が身を清め、祈りを捧げてきた場所でもある。

滝の前に立つだけで、自然の中に宿る“神の存在”を感じずにはいられない。

社殿の脇を進むと、青岸渡寺(せいがんとじ)の三重塔と滝を一望できる場所に出る。

朱塗りの塔の背後に真っ白な水の流れ。

そのコントラストに思わず息をのんだ。まるで神話の世界のような光景だった。

さらに滝壺の近くまで歩くと、轟音が体を包み込む。

落ちてくる水の勢いが空気を震わせ、顔にあたる飛沫が心地よく冷たい。

滝の音は、どこかで聞いた太鼓のように、胸の奥をリズムよく打ち続けていた。

その圧倒的な力の前に立つと、自分の存在が小さく、でも確かにここにあることを感じる。

自然の中に身を置くことで、“旅をする意味”を少しだけ理解できた気がした。

ただ、その瞬間を全身で受け止めた。

【熊野本宮大社 情報】

住所:和歌山県田辺市本宮町本宮1110
アクセス:紀伊田辺駅から車で約1時間〜1時間20分(公共交通の場合は約2時間)
参拝時間:8:00〜17:00(季節により変動あり)
駐車場:無料駐車場あり(本殿近く・河川敷など複数)

公式サイト:https://www.hongutaisha.jp/



旅の始まりに感じた“動き出す勇気”

あのときの自分に、特別な覚悟があったわけじゃない。

それでも、旅に出る理由って案外そんなものなのかもしれない。

熊野本宮大社で感じた静けさも、那智の滝で浴びた水しぶきも、

すべてが「動いたから出会えた景色」だった。

一歩を踏み出したことで、見える世界が少し広くなった。

この旅はまだ始まったばかり。

これから訪れた各地の中で、心に残ったスポットを少しずつ紹介していきたい。

完璧じゃなくていい。ただ、動き出すことでしか見えない景色がある。

あの春の日、熊野の風がそう教えてくれた気がする。

keita

旅とサーフィンを愛するライター。
バイクで日本一周を経験し、海や山を巡りながら“人のあたたかさ”や“心が整う瞬間”に出会ってきました。
“自由な旅”の中で感じた感動や気づきを、言葉と写真で表現し、読む人が「旅に出てみよう!」と思えるような記事をお届けします。

シェアする
タイトルとURLをコピーしました